徳庵にて

 この日は朝から徳庵に来ていた。液漏れがあった商品の詰め替え作業に立ち会っていた。工場は時間との勝負なので、いかに効率よく詰め替えが終わるかを製造ラインの後ろから眺めていた。現場監督の社長は、わずかな問題でもすぐに問題があるボトルをもってきて、自分に説明してくれる。詰め替え作業の立会いは午前中に終わった。
 工場の社長はボトルの詰め替え作業のプロだった。東大阪の食品、化学品メーカーが昔からの取引先で、何でもしていたそうだが、詰め替え作業が一番の得意分野になったのだそうだ。東大阪は宅地化が進み、そこにいる製造メーカーは数年前から撤退するところが多く、工場の経営も大変なのだそうだ。社長は温厚で人を信じやすい人だったから、社長をつとめたこの数十年、取引先にだまされたりして苦しんだこともあったとの事だ。
 自分は社長のことは今日あって話したことしか知らない。社長の話は面白かった。’ボトルの詰め替えは不良品ゼロが当たり前。1000個中、1個ぐらいいいじゃない、なんてのは外人の常識。日本の店頭に並ぶ商品をきっちり扱えたら、どんな国でもやっていけるよ。’社長の意見は世界を見た上での意見ではないだろうが、この意見を聞いて得意に感じた自分がいた。
 大阪は35度の猛暑。忙しい中、社長に天王寺まで送って頂いた。